■ヘレスで暮らす人々~第四回  飯塚 真紀さん ◆真紀さんに関する記事
以前日本のタブラオにてフラメンコを踊る姿を何度か見たことがあった。
今はヘレスで地域通貨の活動を行い、自然農にトライする生活。
フラメンコと地域通貨や農業、全く関係無いように思えるけど、
どんないきさつで今の生活に辿りついたのか?
日本から遠く離れたここスペインで、イロイロ考え、新しい生き方にチャレンジする。
「問題を受け入れることで視野が広がる」
真紀さん、今活動開始。
インタビュー:2008年8月
 
  飯塚 真紀(IIZUKA MAKI)
1969年生まれ。スペイン在住12年。'99年度スペイン政府給費留学生、平成14年度文化庁芸術在外研修生としてフラメンコを学びプロ活動を続けていたが、2005年に踊り手としての活動を休止する。その後は「スローフラメンコ」と題して、大衆のためのフラメンコをワークショップを通して紹介している。フラメンコ以外にも「スロー」をキーワードにした活動に多数参加。ヘレスでの生活の様子をスペイン・フラメンコ情報サイト「Jスパニッシュ」に執筆中。
現在「スロービジネススクール」2期生(元運営委員長、前理事)、ヘレスにて地域通貨グループ「El Zoquito」の立ち上げ・運営、趣味で「自然農」という農法を実験する畑の管理など多岐に渡る活動を行っている。
ヘレスの自宅が3年間の工事を経てまもなく完成。踊りと音楽用スタジオの貸し出し開始。併設でスローなカフェを10月にオープンする予定。

連絡先E-MAIL:bailamaki@gmail.com
 
-ヘレスに来たきっかけは何ですか
日本でフラメンコ(踊り)をやっていたときに最後に習った先生がヘレスのブレリアを教えてくれて、その時初めてCDを聞き面白いと思い、初めてスペインに留学した時からヘレスでブレリアを習いたいと思っていました。ただ、ヘレスには踊りの教室が少なく上達の為に他の場所で基礎をつけてからヘレスへ来ようと思っていて、マドリッド・セビージャでの留学を経てヘレスに来ました。ヘレスは好きだったのでセビージャに滞在していた時はヘレスのフラメンコペーニャにしょっちゅう通っていました。
-スペインに来てからどのくらい
95年に3ヶ月いて、その後96年から継続してスペインにいます。
-私は以前タブラオでまきさんが踊っているのを見たことがあったけど、現在フラメンコ活動はどのようにされていますか
フラメンコは3年前からほぼ関わっていないです。
-何故今フラメンコに関わっていないんですか
私は今までフラメンコは自分の外にあるものだと思っていたんです。誰かがフラメンコを持っていて私はそれをもらいに行き、そのもらった物が自分の中で積み重なっていくイメージでした。教わって教わって、吸収して吸収してって感じ。でも実は、そうじゃなくて、自分の中にあるフラメンコを見つけてそれを育てたかったという事がわかり、外からフラメンコを吸収するんじゃなくて自分自身のフラメンコを探して温めていこうと思いました。そう思ってみたら求めている物はフラメンコフラメンコしたものではなかったんです。フラメンコのアートが持っている何かが私をフラメンコにひきつけていたのだけど、例えば「言葉」だとしたら「スペイン語」とか「日本語」とかあるけれど、スペイン語自体を習得したかったわけではなく、スペイン語の中にある何か・・文化とか・・が私をひきつけていた感じ。フラメンコの周りじゃなく中にある何かが私をひきつけていて、それは最終的には自分の中にあるということが確認できました。そしたら私はやっぱり日本人だし、私は私だし、私の中のフラメンコと共通する何かというのはフラメンコ語じゃなくて違う言葉でも違う表現でも表すことができるかもしれないと思ったんです。まだそれが「何か」というのは形になってはないけど。
これからはフラメンコのクラスは取らないとか見に行ったりしないとかそういうことではなく、外に外に求めていくのはもう十分やったと思っています。
当初、フラメンコを始めたときに自分が「こうなりたい」とか「こうやりたい」と思ったものはこれまでに全部やってみました。それで思っていた目標を達成した時点で、さらにフラメンコの世界の中でもう一歩踏み込んだ目標が作れたけれど、それには興味が持てなかったんです。
  趣味のパン作りを見学
真紀さんの手作りパンは
ふんわりやさしい味
その日の気温や湿度で
出来上がりが変わるそう
今改装中の自宅にて
時々開催予定のカフェで
いただくことができるかも?
 
-今はどんなことをしていますか

家の改築工事の仕事と地域通貨のグループの運営と自分の畑、これが今行っている3つの大きなことです。

-地域通貨に関して、どんな活動をしていますか
地域通貨は日本にも沢山団体があるけどヘレスにはまだありません。ヘレスのフラメンコに惹かれてここに住み始めたのだけど、ヘレスのフラメンコってやっぱり生活に密着しているというところがあって辿っていくとここの人たちの日常の生活というのに惹かれてる自分がいました。どんな所に惹かれたかというというと、日常生活のリズムがものすごくゆっくりだったりあまりお金がなくても自分達で楽しめる物が沢山あってそういう時間と空間と人間関係がある。ローカルな所でほぼ完結された生活スタイルがいい意味で存在していた。それがここ数年特にユーロになってから経済状態が急ピッチで変わってきて、経済の動きが変わると共に人の生活も変わってしまって、目に見えて生活的にいいなと思っていた部分がなくなってきています。
今まで私が得てきた情報だと地域通貨にはそれの一つの解決策となりうるものがあるように思います。何かやりたいと思う時にいつも障害になるものは経済状態。自分もそうだし自分の仲間も家庭もそうだし。やっぱり行き着くところはお金。お金があればできるのにとか、お金がないからやらないとかお金ができないからできないとか言って終わってしまうことがある。お金は物とサービスを循環させる一つの媒体でしかないわけだけれど、今の経済システムではそれ以上の性質を持ってしまっている。本来お金は、物とサービスを他の人と交換する為の約束の媒体でしかなかったわけだからそれ自体には価値がなくてただの約束。ここは失業率がすごく高くて、でも働ける人は沢山いて仕事も沢山ある。例えば町一つ見渡しても「この家修理した方がいい、改装した方がいい」というお家は沢山あるのにお金がないから改装・修理ができない。もしそこからお金を外したら仕事はあるし人材もあるし、お金に変わる媒体を作ればいいのではないかと思い友達を誘いグループを立ち上げました。
-今結構人数いますよね
今の時点では50人。今1年半たち新しくグループを立て直そうと思っています。今までは実験的に友達同士の間で活動を行っていたのですが、少し友達の輪から出てもっと積極的にヘレスの社会体勢の中に入っていきたいと思っていて今ちょうど過渡期。
何にもやらずいれば事なきを得るというのではつまらないので、ないのであれば自分で作りたい。ないところから作るとその過程に必ず問題・障害があるけど、問題は問題として直面し受け入れることで視野が広がるし、生きている感覚が生まれるように思います。
-ヘレス滞在の日本人が参加したい場合参加可能ですか

規則に反しないようにすれば、例えば入ったときにもらえる額の地域通貨があるのだけど短期滞在の外国人でも出て行くときに同じ額にして運営委員会に返してもらえれば参加しても問題ないです。1週間くらいだともしかしたら短すぎるかもしれないけど、外国人だからとか短期しかいないからダメとかいうことはありません。逆にそういう外国人にも入ってもらったほうがより活性化するのではないかと思っています。

-ヘレスの人と外国人の間でもっとコミュニケーションが取りやすくなればいいですね

新しくヘレスに来た外国人やヘレス以外のスペイン人にとって知合いを作るのは時間がかかることだと思います。地域通貨のシステムは、このような新しい人々にとっては社会に溶け込んでいくのに一役かってくれるのではないかと思うし、ヘレスの人々にとっては今まで知らなかった文化を知るきっかけになるのではないかと思います。

 
 
まきさんお勧めの本
 
  この本は私の宝物  
  スロー・イズ・ビューティフル―遅さとしての文化
(平凡社ライブラリー)
 
  簡単な文章なのに
すごく説得力あり
 
  お金のいらない国  
  現代文明って
なんて滑稽なんだと感じる
 
  パパラギ―はじめて文明を見た南海の酋長ツイアビの演説集  
  負け組が勝ち組になる時代!  
  べてるの家の「非」援助論―そのままでいいと思えるための25章 (シリーズ・ケアをひらく)  
  忙しいって心を亡くすこと  
  モモ (岩波少年文庫(127))  
  今の資本主義の限界を
分かりやすく解説
 
  経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか (平凡社ライブラリー)  
 
 
 
-テーマを変えて先ほど話された農業に関して質問させてください。

フラメンコで悩んでいた3年前、フラメンコをやめる前に悩んで苦しんでいた時期がありました。その時にふとしたきっかけで自然農を実践している川口由一さんの講習会に参加することになって、川口さんの話を聞いていたら川口さんと私の間でコンパス(リズム、呼吸、エネルギーの循環)が回ってるって感じがしました。彼とは初めて会ったし彼は農業のことを話していて、私は全然農業のことは知らないしフラメンコの世界にいてフラメンコでの悩みがあったりして、ただ話を聞いただけだったんだけど。私が勝手に思っただけかもしれませんが、彼は私が欲しいと思っているものをかもしだしていて、私はそれが欲しいからスッと吸収して欲しかった物をもらったことで充実して満たされることで嬉しそうな顔だったり真剣に聞いているまなざしだったり私から出ている何かを川口さんが受け取って出してきて私がまた受け取って・・・という音にはならない循環を私自身は感じました。
その時に自分の悩みに対して「問題は自ら解決せよ」というメッセージを受け取りました。私は解決のきっかけをもらって「あ、私がフラメンコの世界の中で欲しいと思っていて、こういう所がすごく惹かれると思ったものはフラメンコの世界だけにあったわけではなく農業の世界にもあるし他の世界にもいっぱいあるんだ」ということに気付きました。それで彼に興味を持ち講習会に参加し実践する事でよりそれを感じてその時からヘレスに帰ってどこかで畑を借りて自然農の畑をやりたいと思っていました。今まで土いじりとか大嫌いだったし、部屋の中で鉢植一つ育てられない人間だったんですけど。

-今畑を作っている場所はどうやって見つけたんですか

そういう風に思っていたら畑を貸してくれる人が自然に見つかりました。もちろんずっとソファに座っていて天から降りてくるということはないけれど。
予期しない事も起こるけど、究極は何でもあり。起こりえないことは起こりえないし起こりえることだからこそ起こりえてそれに対して結果が出て、常に現実。常に現実から結果が出ての積み重ね。
雑草の話もそうだけど、雑草という言葉は人間が作ったもので、「これが欲しいからこれが邪魔」で「雑草」と決めちゃった物。で、悪者になってる。害虫もそう。でも自然農の見方だと雑草とか害虫とか言う物は存在しなくって、そこにあるものは全て必要だから出てきて、全て理由があってそこに生まれて理由があってそこで増えて、それはなぜなら次のステップの準備段階として常に現実だけど、現実の視点からみたら常に準備段階でもある。全てのものに意味があり価値がありそこに存在する意味がある。だからそういう視点で見ると雑草というものは存在しないし害虫も存在しない。

-自然農というのはそういうのを生かす方法の農業ですか

農業というくらいだし自分が食べる為に収穫物を取る為に自分の好きな物を植えるわけだからもちろん人工的なわけだけれど、でもより自然の力を利用させてもらって自然になるべく寄り添って、それで収穫物を得るという方法です。

-農業は今後どこに向かうんですか。今は実験段階ということでしょうか。

普通は目標をたてて、達成した時点で終わるけどそれは無いです。ある意味では目的もなく、達成する事も無く、私は実験という言葉を使ったけど常に変化していてその毎日の変化を私も畑と一緒に生きています。

-試してるというより実践してるんですね

実践でもボーっと見ているわけではないので、今度何植えてみようとかこの草刈ってみようとか考えたりしてる。どうなるかはわからないから、おくら植えたからってどういう風に育つのかどの位できるのかとかはわからない。実験という言葉を使ったのは、いつもわからない事をこうしてみたらああなってああしてみたらこうなってと試行錯誤しているためです。将来的にはもう少し収穫物が欲しいから私が持っている畑の自然をもう少し把握できたら多少のコントロールというものができると思うけどまだあの畑を知らないから今は観察している状態です。

-フラメンコから農業というと全然違う感じがするけど、色々いきさつがあってここに辿りついたんですね

農業で終わるかどうか次に行かないかどうかはわからないけど、フラメンコで惹かれた部分の一つが人間の持つ生命力の力強さをカンテフラメンコの中に感じたこと。その時ちょうど母親を亡くした時期で弱く不安定な状態でした。何の為に生きているのかどう生きていくのか生きていく為の柱が崩れた状態でした。私は雑草のようには育っていなくて、ある意味家族や日本という社会の温室の中で他から肥料やお水をもらって守られて生活してきたから、その温室から出された時どうしていいかわからなくなってしまったんです。それでフラメンコを聞いたら、初めから温室の外で生活しているような人たちの力強さを感じました。結局フラメンコの中でそういうのをいっぱい感じられたし最終的にそれは自分の中にあるんだというのも自分なりに納得できたし、それで「命って人間だけが持つものではないじゃないか」と思って畑に行ったらいっぱいいろんな命があって、人間の生命力どころではない生命力もあるから嬉しくなりました。

-全然違う事をやるにも勇気がいると思うけど

フラメンコをやめてしばらくひきこもりになりました。

-その後に農業に出会ったんですか

その時には既に出会っていました。日本に一年滞在したときに出会って、こっちに帰ってきたら農業と自分をつなげてくれる媒体が無くて。今までの人間関係とか今まで関わってきた培ってきた知識とか経験とかそういうものはほぼ全てフラメンコに関した物だったから、それ以外でどうしていいかわからなくなって、「やりたい」という気持ちがあってもどうやっていいかわからなかったし、自分はフラメンコを取ったら何にも出来ないと思う時期がありました。
フラメンコをやめてから3年程経った今、やっとフラメンコ以外の事でこっちでの人間関係とか日本での人間関係とかそういうもののベースが出来た感じがします。

-フラメンコもやめたわけではなくて形は変わるけど続けていくんでしょ

今は沢山活動しているわけではないけど日本に帰ったときにはスローフラメンコの活動を行っていて賛同してくれる人とクラスやイベントをやったりしています。

 
飯塚 真紀 活動・執筆記事リンク
大衆のためのフラメンコワークショップ「スローフラメンコ」 http://treescafe.exblog.jp/8296443/
「Jスパニッシュ」にヘレスでの生活の様子を執筆 http://www.jspanish.com/menu.html
スロービジネススクール http://www.slowbusiness.org/
地域通貨「El Zoquito」 http://elzoquito.blogspot.com/
  http://www.noticiaspositivas.net/noticia.asp?IdNoti=965
自然農の畑に関する記事 http://www.slowbusiness.org/article.php/20080620094027999